相続対策としてよく検討されるのが「生前贈与」です。
特に不動産は、保有資産の中でも金額が大きく、贈与によって相続税の節税効果を得られる可能性があります。
しかし一方で、贈与税や登記に関するコスト、制度の理解不足によるトラブルなどにも注意が必要です。
今回は、不動産の生前贈与に関する基礎知識や、実際に活用する際のポイントをわかりやすく解説します。
生前贈与と相続の違いとは?不動産を生きているうちに引き継ぐメリット
生前贈与の最大の特徴は、贈与者が存命中に財産を譲り渡せるという点です。
これにより、財産の受け渡しを計画的に行うことができ、相続時のトラブル回避や税負担の軽減が期待できます。
特に不動産を早めに贈与しておくことで、誰に何を渡すのかを明確にでき、遺産分割協議による揉め事を防ぎやすくなるという利点があります。
また、不動産の評価額は、
- 土地:路線価方式または倍率方式
- 建物:固定資産税評価額
によって計算され、贈与時点の評価額が贈与税や後の相続税の計算に影響します。将来的に価格が上昇する可能性のある不動産であれば、早期贈与によって相続税の負担を抑える効果も見込めます。
さらに、賃貸アパートやマンションなどの収益不動産を贈与した場合、以後の家賃収入は受贈者の所得となり、相続財産の増加を防ぐという間接的な節税効果もあります。
知っておきたいデメリットとコスト面の注意点
不動産の生前贈与には次のようなデメリットもあります:
- 贈与税の税率が高い:高額な不動産の贈与では、大きな贈与税負担が生じる可能性があります。
- 登録免許税が相続より高い:贈与による名義変更では税率が2.0%、相続は0.4%。贈与の方が高コストです。
- 不動産取得税の課税:相続では課されないこの税金も、贈与では発生します。
- 持ち戻し対象になる可能性:相続開始前の一定期間内の贈与は、相続税の対象に再計算されるケースもあります(現行では最長7年)。
つまり、節税どころか結果的に税金や費用が増えることもあるため、制度の正しい理解と専門家のアドバイスが欠かせません。
節税に活かせる生前贈与の特例制度
生前贈与をより効果的に行うためには、以下のような非課税枠や特例制度の活用が有効です。
① 暦年贈与の非課税枠
- 年間110万円までの贈与が非課税
- 何年にもわたって分割贈与することで負担を軽減
- ただし、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される点に注意(2024年より段階的に延長)
② 相続時精算課税制度
- 60歳以上の父母・祖父母から、18歳以上の子・孫への贈与が対象
- 累計2,500万円まで贈与税が非課税
- さらに2024年以降、年間110万円の基礎控除も追加(毎年)
- 最終的には相続財産として再合算され、相続税を計算
③ 配偶者への居住用不動産の贈与(配偶者控除)
- 結婚20年以上の夫婦間で、自宅またはその取得資金の贈与が対象
- 通常の110万円の基礎控除に加えて、最大2,000万円まで非課税
生前贈与が向いていないケースも?相続との比較が重要
相続には、生前贈与では利用できない以下のような特例も存在します:
- 小規模宅地等の特例:自宅や事業用宅地の評価額を最大80%減額
→ これは相続時のみに適用され、生前贈与では利用不可
つまり、不動産の贈与が必ずしも有利とは限らず、
- 評価額
- 贈与時期
- 所有資産の全体構成
- 相続人の構成や意向
などを踏まえたシミュレーションと比較検討が欠かせません。
贈与を成功させるための準備と専門家の活用
不動産を贈与する際には、以下の準備を整えておくことが大切です:
- 必要書類(登記簿謄本、固定資産税評価証明書など)の確認
- 贈与契約書の作成
- 贈与税の申告手続き
- 登記変更の申請
また、贈与内容や時期を家族と共有しておくことで、後の相続でのトラブルを防ぐ効果もあります。
不動産の生前贈与は、相続対策や資産承継の手段として非常に有効な一方で、リスクや注意点も多く含まれます。
最適な方法を選ぶためには、税理士・司法書士・不動産の専門家などと連携しながら進めることが重要です。
まとめ|不動産の生前贈与は計画的に進めよう
不動産の生前贈与は、適切に行えば相続税の負担軽減や家族間のトラブル防止につながります。
ただし、制度や税金に関する正しい知識を持たずに進めてしまうと、かえって不利益を被るケースも。
「贈与か相続か」の判断は、制度の違いやコスト、将来の相続人の関係性まで含めて検討する必要があります。
家族全体の状況や目的を見据え、計画的かつ専門的なサポートを受けながら進めていきましょう。
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