2025年9月現在、相続対策として「遺言の作成」は広く行われていますが、遺言だけでは不十分なケースもあります。民事信託を併用することで、相続後の財産管理や活用方法まで設計でき、より円滑で安心な承継が可能になります。今回は、遺言と信託の役割の違い、そして両者を組み合わせるメリットを解説します。
遺言だけでは不十分?相続後に起こりやすいトラブル
遺言は「誰に、どの財産を引き継がせるか」を指定できる有効な手段です。しかし、遺言では財産の「使い方」や「運用方法」までは決められません。
例えば、不動産を長男に相続させると遺言で指定しても、その後の利用方法(売却するのか、賃貸に出すのか、収益をどう分けるのか)までは制御できません。不動産が収益物件の場合、名義人となった長男に利益や管理が集中し、他の相続人との不公平感や不満につながるケースもあります。
特に以下のような財産ではトラブルが起こりやすい傾向があります。
- 分割が難しい不動産
- 自社株などの事業用資産
- 美術品・骨董品など評価が難しく価値が変動しやすい資産
例えば「不動産は長男、預金は次男」と遺言で分けても、評価額が均等でなかったり将来的に価値が変動したりすることで、感情的な対立を生むリスクがあります。
民事信託で実現できる柔軟な財産管理
民事信託を利用すると、単に「誰に渡すか」だけでなく「いつ・どのように渡すか」「誰が管理し、誰が利益を得るのか」まで細かく設計できます。
例えば、不動産を長男に管理させつつ、その収益を母と妹に等分する、といった仕組みも可能です。このように「管理する権利」と「利益を受け取る権利」を分けられる点は、遺言にはない大きなメリットです。
さらに、遺言で信託を発動させる「遺言信託」を使えば、遺言と信託の役割を組み合わせ、相続の「承継」と「活用」を同時にコントロールできます。
遺言と信託を組み合わせるメリット
遺言と信託を併用することで、次のような効果が期待できます。
- 財産の承継先だけでなく、その後の管理・活用方法まで指定できる
- 分けにくい財産(不動産・自社株など)によるトラブルを防げる
- 家族構成や事情に応じてオーダーメイドの相続設計が可能になる
例えば、以下のケースでは遺言と信託の併用が特に有効です。
- 高齢の配偶者が残される場合
- 障がいのある家族がいる場合
- 事業用資産や収益不動産を所有している場合
まとめ 相続は「承継先」+「その後の活用」まで設計を
遺言は財産の「承継先」を指定するもの、民事信託は財産の「承継後の流れ」を設計できるものです。特に不動産や共有財産など分けにくい財産を抱えている場合、両者を併用することでトラブルを防ぎ、安心できる相続を実現できます。
相続対策は「遺言だけで十分」と思わず、信託も取り入れて家族の希望に沿った仕組みを準備しておくことが大切です。
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