遺言執行者の役割・権限・選び方を専門家が解説(2025年10月時点)
本記事は、2025年10月時点で公表されている制度に基づいて解説しています。
遺言がある場合、相続手続きは原則としてその内容に従って進みます。しかし、**「誰が実務を進めるのか」**によって、手続きのスピードやトラブル発生率は大きく変わります。
そこで重要になるのが、遺言書で指定できる**「遺言執行者」**という存在です。
この記事では、遺言執行者の役割・権限、選任が必要となるケース、選び方のポイントを専門家の視点で整理し、わかりやすく解説します。
■ 遺言執行者とは?
遺言内容を実行する“手続き責任者”
遺言執行者は、遺言の内容を実現するために次の業務を担います。
- 相続財産の管理
- 財産目録の作成と相続人への交付
- 遺言の内容説明・通知
- 預貯金・不動産・株式などの名義変更
- 遺贈財産の引渡し
- 手続全体の進行管理
民法上、遺言執行者は
「善良な管理者の注意義務」(民法1019条)
を負い、中立的かつ誠実に遺言を実現する立場にあります。
特に、特定遺贈の執行は遺言執行者のみが行えるため、遺言内容によっては不可欠な存在となります。
■ 遺言執行者に認められる主な権限
民法1012条では、遺言執行に必要な一切の行為が認められています。具体的には:
- 預貯金の払戻し・解約
- 不動産の相続登記
- 株式・保険契約などの名義変更
- 子の認知に関する届出
- 推定相続人の廃除・取消しの届出
- 遺贈財産の引渡し
一方、次のような行為は権限外です。
- 遺言に書かれていない財産の分配変更
- 相続税の申告手続き
- 相続放棄・限定承認の代理
- 遺産分割協議の取りまとめ
このため、実際には税理士・司法書士などとの連携が必要になることも多くなります。
■ 遺言執行者が必要となるケース
【法律上、必須となるケース】
以下の内容が遺言に記載されている場合、執行者がいないと手続ができません。
- 子の認知
- 推定相続人の廃除・取消し
- 特定遺贈の執行
【任意だが、選任が“望ましい”ケース】
- 相続人間に争いの可能性がある
- 相続人が高齢・遠方で手続が難しい
- 財産が多岐にわたる(不動産・法人・株式など)
- 手続を確実に進めたい
- 遺言内容が複雑
近年は、中立性の確保を重視して弁護士や司法書士など第三者専門家を選ぶケースが増加しています。
■ 遺言執行者の選任方法
① 遺言で指定する(最も確実)
遺言で
「遺言執行者を○○とする」
と明記する方法が最も一般的です。
② 家庭裁判所の選任
相続人や利害関係人が申立てを行い、家庭裁判所が選任することもできます。
■ 遺言執行者をどう選ぶべきか
ポイントは「中立性・専門性・実務能力」
遺言執行者には未成年者と破産者以外なら誰でもなれますが、実務上は次の観点が重要です。
- 相続人の一部に偏らない中立性
- 半年以上続く手続きを遂行できる体力と責任感
- 財産内容に応じた専門知識
- トラブルを避けたい場合は第三者専門家の選任
■ 2025年時点の実務上の注意(制度変動の影響を受けない表現)
近年の相続実務の傾向として:
● 遺言執行者の説明責任を重視する傾向
家庭裁判所は、
- 相続人への通知
- 手続の透明性
- 財産目録の正確性
を従来より厳格に求める傾向があります。
● 裁判例でもトラブルは増加傾向
近年の裁判例では、
- 相続人への連絡不足
- 財産管理の不備
- 処分行為の説明不足
が問題となり、執行者の責任が問われた事例が多く見られます。
このため、実務では“透明性のある進行管理”が重要なテーマになっています。
■ まとめ|遺言を確実に実現するためには、執行者の存在が欠かせない
遺言があっても、**“誰が動かすか”**によって実際の相続は大きく変わります。
遺言内容が複雑な場合や、相続人の状況に不安がある場合には、遺言執行者を指定することで手続の確実性が大きく高まります。
遺言作成の段階で、
- 財産構成
- 相続人の状況
- 将来のトラブル可能性
を踏まえ、適切な遺言執行者を選ぶことが、安心できる相続につながります。
不安がある場合は、早めに専門家へ相談しておくことをおすすめします。
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