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遺留分の基礎知識

遺留分の基礎知識

2025.12.16

相続・事業承継

——権利者・割合・請求方法をわかりやすく整理

遺言で特定の人に大部分の財産を渡す内容にすると、ほかの相続人の生活が脅かされたり、家族間の不公平感が生まれたりすることがあります。
こうした事態を防ぐために設けられているのが 「遺留分(いりゅうぶん)」 という制度です。

遺留分は、法律で保障された“最低限の取り分”を確保する仕組みで、遺言の内容よりも優先される強い権利です。
この記事では 権利者の範囲・遺留分の割合・請求方法 まで、相続で必ず押さえておきたいポイントをまとめます。


■ 遺留分制度の目的とは?

遺留分とは、一定の法定相続人に保障されている「最低限の遺産取得分」 のことです。

遺言や生前贈与によって財産が特定の人に偏った場合でも、

  • 遺された家族の生活を守る
  • 相続人間の公平バランスを保つ
  • 過度な偏りによるトラブルを防ぐ

という役割があります。

遺言があっても遺留分は奪うことができず、侵害された場合には「返してほしい」と請求できる仕組みです。


■ 遺留分を持つ人(権利者)の範囲

遺留分が認められるのは、次の相続人です。

  • 配偶者
  • 子・孫(代襲相続人)
  • 父母などの直系尊属(子がいない場合のみ該当)

逆に、次の方には遺留分はありません。

  • 兄弟姉妹(相続人であっても権利なし)

これが非常に重要で、兄弟姉妹は遺言で「全財産を第三者に遺贈する」と書かれても遺留分を請求できません。


■ 遺留分を計算するときの「対象財産」

遺留分の計算に含まれるのは次の金額です。

  1. 相続開始時点での被相続人の財産
  2. 相続開始前の一定期間内に行われた贈与(例:特定の相続人への厚い生前贈与)

これにより、
「生前に大部分を贈与してしまえば遺留分対策になる」
という考え方は、基本的には通用しません。


■ 遺留分の割合

遺留分の割合は法定相続人の構成によって変わります。

● 原則

遺留分の対象財産 × 1/2

● 直系尊属(父母など)のみが相続人の場合

遺留分の対象財産 × 1/3

これにそれぞれの法定相続分を乗じると、個々の遺留分額が計算されます。


■ 遺留分は「現物返還」ではなく金銭請求

2019年の相続法改正により、遺留分の制度は大きく変更されました。

以前:

  • 不動産そのものの返還を求めるケースが多かった

現在:

  • 侵害された金額を金銭で支払ってもらう制度(遺留分侵害額請求権) に一本化

つまり、遺留分の権利者は「お金」を請求するのが原則です。
これにより、遺族間のやり取りが分かりやすくなり、不動産の共有化といった複雑なトラブルも減少しています。


■ 遺留分侵害額請求の方法

遺留分を請求する場合は、次の流れが一般的です。

  1. 意思表示(内容証明郵便が望ましい)
     侵害額を支払うよう相手に通知する
  2. 協議・交渉
     支払額・期限・支払方法などの調整
  3. 合意書の作成(必要に応じて)
  4. 不調の場合は裁判手続へ

なお、内容証明は義務ではありませんが、
「確実に通知した証拠」になるため実務ではほぼ必須です。


■ 遺留分には“厳しい期限(時効)”がある

遺留分侵害額請求権には時効があります。

  • 侵害を知った時から1年
  • 相続開始から10年(絶対期限)

どちらか早いほうで権利が消滅します。

特に「1年」という期限はとても短いので、
相続が発生したら遺言内容や財産状況を早めに確認することが重要です。


■ まとめ

遺留分は、法定相続人の生活や公平性を守るために設けられた強い権利です。
しかし、権利者の範囲や割合、請求期限が厳密に定められているため、

  • どこまでが遺留分の対象か
  • 侵害されているかどうか
  • 時効が迫っていないか

といった点を、自分だけで判断するのは難しいケースが多くあります。

トラブルを避けるためには、
相続発生前の段階から遺留分を考慮した遺言や生前対策を行うこと が大切です。
不安な場合や判断に迷う場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

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