夫婦の一方が亡くなった際、残された配偶者が「住み慣れた自宅に住み続けながら、老後の生活費もきちんと確保する」ことを可能にした仕組みが「配偶者居住権(はいぐうしゃきょじゅうけん)」です。
この制度は、自宅の権利を「住む権利」と「持つ権利」の2つに切り分けることで、賢く柔軟に遺産を分けるための画期的な選択肢として定着が進んでいます。
今回は、配偶者居住権の仕組みや活用するメリット、制度を利用するための必須要件について解説します。
「住む」と「持つ」に分解!制度が生まれた背景と2大メリット
配偶者居住権とは、亡くなった方が所有していた建物に、残された配偶者が亡くなるまで(または一定期間)、無償で暮らし続けられる権利のことです。
これまでの相続では、配偶者が価値の高い自宅を丸ごと相続してしまうと、法定相続分の枠が自宅だけで埋まってしまい、「住む家はあるけれど、老後の生活資金(現預金)が手元に残らない」という問題が頻発していました。
そこで、自宅の価値を「居住権(住む権利)」と「所有権(持つ権利)」に分けることで、以下の「2大メリット」が生まれるよう制度が作られました。
- メリット1:配偶者の老後資金を多く手元に残せる 「居住権」の評価額は、自宅を丸ごと引き継ぐ「所有権」よりも低く算出されるのが一般的です。そのため、遺産全体の枠の中で、その分だけ預貯金や生活費を多めに相続しやすくなります。
- メリット2:子どもへのスムーズな資産承継(二次相続対策) 自宅の「所有権」をこの段階で子どもが引き継いでおくことで、将来、配偶者が亡くなったとき(二次相続時)に、子どもへ新たな相続税が課されるのを防ぐ効果が期待できます(配偶者の死亡により居住権は消滅します)。
利用するために外せない「4つの成立要件」
配偶者居住権は自動的に適用されるわけではありません。制度を利用するためには、以下の4つの条件をすべてクリアする必要があります。
- 法律上の婚姻関係があること:亡くなった方の法的な配偶者である必要があります。
- 亡くなった時点で同居していたこと:相続開始(逝去)のタイミングで、その建物に実際に住んでいたことが求められます。
- 故人の単独所有(または夫婦の共有)であったこと:建物が第三者との共有名義になっている場合は利用できません。
- 正しい手続きで取得すること:遺産分割協議での合意、遺言による遺贈や死因贈与、または家庭裁判所の審判のいずれかによって取得を確定させる必要があります。
なお、権利が確定した後は、法務局で「配偶者居住権の登記」を行うことが実務上極めて重要です。登記をしておくことで、万が一子どもが勝手に自宅を第三者に売却してしまったような場合でも、配偶者はそのまま家に住み続ける権利を社会的に守ることができます。
実務で気をつけたい3つの「使用制限」
非常に強力にパートナーを守ってくれる権利ですが、実務上は以下のデメリットや制限事項に注意しておく必要があります。
- 注意点1:権利の売却や譲渡は一切不可 配偶者居住権は、その配偶者一代限りの特別な権利です。そのため、第三者に権利を売ったり、他人に譲り渡したりすることはできません。
- 注意点 2:無断で賃貸に出すことはできない 建物の所有者(子どもなど)に黙って、勝手に第三者に部屋を貸し出して家賃収入を得るような使用方法は認められません。
- 注意点3:固定資産税などの日常の維持費は配偶者が負担 その家に住むにあたって発生する固定資産税や、日々の軽微な修繕費といった「通常の必要費」は、原則として居住している配偶者自身が支払うルールとなっています。
まとめ|「住まい」と「生活費」のベストバランスを
配偶者居住権は、残されたパートナーの老後の安心を物心両面から支えるための有効な手段となり得ます。 ただし、家族の関係性や、将来的に自宅を売却して老人ホームの入居資金に充てる計画がある場合など、状況によっては必ずしも最適な選択肢にならないケースもあります。
家族にとって本当に有利な分割方法を見極めるためには、最新の税制や特例の動向も考慮する必要があるため、まずは実務に精通した専門家へ相談し、長期的なシミュレーションを行うことをお勧めします。
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